ハマグリの資源管理について

ハマグリの資源管理について 浅海干潟研究部高日新也

 右下:レーザーマーカーで標識したハマグリ   目次 1 ハマグリ資源の現状 2 ハマグリの基礎知識 3 ハマグリの資源管理 漁獲直後のハマグリハマグリのお吸い物

1 ハマグリ資源の現状と課題 ハマグリは、全国でも熊本でも 絶滅危惧種です 平成24年8月、 環境省の改訂版レッドリストで、 ハマグリは「絶滅の危険が増大している」として、 絶滅危惧Ⅱ類に指定されました。 熊本県レッドデータ ブックにおいても、 平成21年度より 絶滅危惧Ⅱ類に 指定されています。 資料名または県名評価作成年 環境省第4次レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類2012  水産庁レッドデータブック減少2000  千葉県消息不明・絶滅2011  愛知県絶滅危惧ⅠA類2009  三重県絶滅危惧Ⅱ類2005  兵庫県Aランク2003  岡山県絶滅危惧Ⅰ類2009  愛媛県絶滅危惧Ⅱ類2003  熊本県絶滅危惧Ⅱ類2009  宮崎県準絶滅危惧2007  表:各機関の指定状況

1 ハマグリ資源の現状と課題 熊本のハマグリは、全国的にも珍しい 純粋なハマグリです チョウセンハマグリ  茨城・千葉県  太平洋沿岸  シナハマグリ  輸入・畜養  伊勢湾奥  有明海、八代海  ハマグリ  平成18年の漁獲量  1位 茨城県 579トン  2位 熊本県 106トン  3位 千葉県 82トン  4位 三重県 60トン  ※農林水産統計

1 ハマグリ資源の現状と課題 熊本県沿岸のハマグリ主要漁場  菊池川河口域  最大漁獲量 238トン(S42)  白川河口域  最大漁獲量 402トン(S61)  緑川河口域  最大漁獲量 5,788トン(S49)  八代海湾奥東部  最大漁獲量 822トン(S42)  福岡県 長崎県 佐賀県 有明海 八代球磨川河口域  最大漁獲量 98トン(H7)  緑川河口域が最大の生産地です (農林水産統計)

1 ハマグリ資源の現状と課題 以前と比べ、漁獲は大きく減少しています  漁獲量  生産額  (億円) (トン)  (農林水産統計)  昭和49年  5,855トン  昭和53年  33.6億円  平成18年  106トン  0.83億円  漁獲量と生産額の推移

2 ハマグリの基礎知識 夏(7~8月)に産卵します ※産卵開始サイズは、殻長30~40mmと 考えられています D状期幼生 アンボ期幼生  着底稚貝 フルグロウン期幼生  供与:千葉県水産総合研究センター  産卵と浮遊幼生について 浮遊幼生の変態過程 浮遊幼生調査の結果(緑川河口域)  7~8月に浮遊幼生が確認される

2 ハマグリの基礎知識 ハマグリは、数年かけてゆっくり成長します 定期サンプリングの結果(緑川河口域)  6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月4月5月  発生年:稚貝で越冬  発生翌年:10~20mmに成長  発生2年後:30mm程度まで成長  9月頃、稚貝の着底が観察される(赤丸)  発生年は、稚貝は成長せず、越冬している(ピンク矢印)  発生翌年に10~20mm、2年後に30mm程度まで成長する  (水色矢印、緑矢印)

2 ハマグリの基礎知識 ハマグリは、河口付近に 多く生息します 0  1km  凡例 :調査点 :監視塔 :養殖場 :灯台 :覆砂漁場調査点  :臨時調査点   平成4 度 緑川河口域 ハマグリ生息状況   全サイズ単位:個m )  2 年 ( 6月16~18、31日 / 2  ※赤字は覆砂漁場の生息密度を示す。 生息場所について ハマグリ生息状況調査の結果、 稚貝、成貝とも河口域に多く 確認されました(図の赤丸)。 これは、ハマグリが生息できる 塩分の範囲が、他の二枚貝 (アサリやシオフキなど)と 比較して広いためと考えられます。 生息状況調査の結果(緑川河口域)

2 ハマグリの基礎知識 ハマグリは、漁場を広域に移動します 標識放流試験の結果(緑川河口域)  移動生態について

3 ハマグリの資源管理 1:資源の状況を知りましょう 資源管理を行うにあたって、現在のハマグリの漁獲量や 生息状況について正確に把握する必要があります!  ○各漁協で、各月の漁獲量を 記録しましょう。 ○定期的に生息状況調査を実施し、 ハマグリ漁場の状況(稚貝、 食害生物や底質の状態など)を 把握しましょう。 具体的には…  写真:平成24年10月に八代海で実施された、 自主的なアサリ漁場調査 写真:調査野帳

3 ハマグリの資源管理 1:資源の状況を知りましょう 漁場マップの作成例 まずは、状況を知るところから始めましょう

5.5分はまだ若者のハマグリです 2:漁獲サイズを大型化しましょう 3 ハマグリの資源管理 現在の漁獲サイズ(殻長30mmより大きい)では、 産卵前のハマグリを獲っている恐れがあります!  産卵母貝を出来るだけ長く 漁場に残すことで、産卵機会の 増加が見込まれます。 一気に大型化することは 難しいかもしれませんが、 殻長30mm(殻幅約5.5分)  →35mm(殻幅約6.5分)  →40mm(殻幅約7.5分)  と、段階的に大きくしましょう。 県名採捕禁止サイズ(参考:レードデータ)  千葉県30mm以下消息不明・絶滅 愛知県30mm以下絶滅危惧ⅠA類 三重県30mm以下絶滅危惧Ⅱ類 兵庫県50mm以下Aランク 岡山県30mm以下絶滅危惧Ⅰ類 福岡県40mm以下 佐賀県40mm以下 (有明海は30mm以下)  長崎県30mm以下 熊本県30mm以下絶滅危惧Ⅱ類 大分県40mm以下 宮崎県60mm以下準絶滅危惧 参考:他県の漁業調整規則 福岡、佐賀、大分では殻長40mm  以下が採捕禁止であり、 熊本は周囲の県と比較して小型の ハマグリを採捕しています。

効果は、産卵母貝の保護だけはありません 2:漁獲サイズを大型化しましょう 3 ハマグリの資源管理 大型化は、収入増加も期待出来ます!  ・1ネット分の殻長30mmのハマグリを全て殻長40mmまで 育てることで、約2ネット分になります。 30-32mm 35-37mm 40-42mm  平均重量(g) 8.9 11.2 17.4  1ネット(10kg)あたり個数1124 893 575  殻長 ・過去に実施した飼育試験では、殻長30~40mmのハマグリの 1年間の生残率は約70%であり、累積成長は14.5mmでした。 表:各サイズの平均重量と10kgあたり個数 つまり ・自然死する分を差し引いても、成長するのを待って 漁獲する方が漁獲量は増える!?

3 ハマグリの資源管理 3:夏(7~8月)の産卵期には出来るだけ休漁し、 秋以降に単価が上がってから漁獲しましょう ひなまつりの前に、単価が上昇します

3 ハマグリの資源管理 3:夏(7~8月)の産卵期には出来るだけ休漁し、 秋以降に単価が上がってから漁獲しましょう 高くなってから売ると、一石二鳥です 夏季(7~8月)に漁獲されたハマグリが、冬季(11~2月)  に漁獲されたものとして年間漁獲金額を試算したところ、 漁獲金額は16%程度増加しました(試算1)。 また、一年間に漁獲された全てのハマグリが冬季(11~2  月)に漁獲されたものとして同じ試算を行ったところ、 年間漁獲金額は66%程度増加しました(試算2)

3 ハマグリの資源管理 4:漁獲量制限を行いましょう ネット数制限は、稚貝の生息状況も加味し、 翌年以降の漁獲も見越して設定しましょう 漁場全体で統一した漁獲制限が必要です ハマグリの生息状況の把握 単価の動向把握 ネット数制限の強化または休漁  資源量が多い資源量が少ない 操業者数の把握 ネット数制限の維持ネット数制限の緩和 ネット数制限の維持 単価が高い単価が安い 操業者が多い操業者が少ない ネット数制限の取り決め方の例

3 ハマグリの資源管理 5:保護区を設置しましょう 安心して産卵出来る場所を作ってあげましょう 保護区は、 河口付近のハマグリが 生息している場所に設定 し、 可能な限り大きく、 コンポース等で囲って 明確にしましょう。 区画を網で囲い、 覆いを被せることで、 ハマグリの流出や ナルトビエイなどの 写真:保護区の設置例(竜北地先) 来遊を防ぎます。

3 ハマグリの資源管理まとめ 着実に、時間をかけて取り組みましょう これまでにあげた5つの管理手法を同時に進行していく ことが、資源回復の早道です。 年間スケジュール例

ご静聴ありがとうございました 資源管理マニュアルは、 3月迄に発行、配布予定です。