10月26日~27日 全国豊かな海づくり大会が熊本で開催されました。
「有明海、八代海、天草灘で営まれている本県の特色ある水産業の魅力と水俣の海の再生を情報発信するとともに、豊かな海を育む取り組みを推進します。」という基本理念のもと、式典、海上歓迎、放流行事等が行われました。
第33回豊かな海づくり大会功績表彰団体として、漁場・環境保全部門において、川口漁業協同組合が表彰されました。
表彰された内容は次のとおりです。
はじめに
川口漁業協同組合は熊本県の中央部の熊本市の西南部に位置し、熊本平野を東西に流れ有明海に注ぐ一級河川「緑川」河口の北側を地区とする漁業協同組合である。「緑川」河口に広がる広大な干潟を利用して、アサリ・ハマグリ等の採貝漁業、クルマエビ等の流し網・げんしき網漁業、小型定置網漁業、ノリ養殖業が古くから営まれてきた。近年は、クルマエビなどが不漁であるため、アサリ・ハマグリ漁に依存する漁業者の割合が増加してきている。
1 団体の概要
○組合員数270名(平成25年 4月末現在、正組合員数156名、准組合員数114名)
○ノリ養殖業者は9名
○漁船漁業者は10名程度
○アサリ・ハマグリを採る組合員数は180名(家族で操業する組合員もいるので、従事者は260名程度で、組合員のほとんどがアサリ・ハマグリを採って生計を立てている。)
2 活動内容
1)アサリ漁場の環境保全
未成熟サイズのアサリの採貝、親貝資源を低下させるほどの漁獲努力、着底後に成長できない稚貝、大雨による大量へい死の発生などにより減少したアサリ資源を回復させるために様々な取組みを行ってきたが、アサリ漁場に砂を蒔くことにより漁場環境の改善を図り、アサリ資源の回復を図る取組みを先進的に実施し、事例を積み重ねることにより覆砂事業の礎を築いた。
熊本県のアサリ漁獲量は、昭和52年の6万5千トンをピークに、それ以降は緩やかに減少していたが、川口漁協は、昭和56年に最高の9,400トンを漁獲し、県全体の1/4を占め、県下で最大のアサリの生産地であった。その後、昭和62年までは、6,000トン以上の漁獲量が維持されたが、以後、急減し、平成3年には1,000トンを割り、平成6年には、漁獲量は0になった。県全体の漁獲量も、同様の推移を辿り、平成9年に1,009トンと最低となった。
アサリ・ハマグリ漁業者は、他に収入の場を求めざるを得なくなった。危機感を抱いた組合は、資源の回復を図るため、他県から稚貝を購入し、蒔き付けを行ったり、ヘドロの堆積を防止するため、漁場に作れいし、海水の交換の促進を図る等、様々な試行錯誤を行ったが、成果は上がらなかった。
当時は、アサリの浮遊幼生は春季、秋季になると現れ、漁場に着定し、数ミリ程度までは生長するが、それ以降にへい死するという状況が繰り返されていた。そこで、漁場の砂の質が原因ではないかと考え、事業実施の要望を行い、平成7年度に熊本市事業で宇土市網田沖漁場の砂を、「盛り砂・覆砂」し、漁場環境改善を目的とした漁場の造成を試みた。
当時は、「砂の上に砂を撒いてどうするのだ。無駄な費用を使うな。」と、漁業者からの厳しい意見もあったが、その結果、その区域だけアサリ稚貝が着定し、その後の成長が確認された。この結果により漁場環境改善の効果がみえはじめたことから、平成9年から漁協単独事業としても、小規模ながら継続して覆砂を実施した。
覆砂を行った漁場は、関係機関と連携を取りながら調査を行い、アサリ資源の回復に効果があることが明らかになった。
その後、平成12年度のノリの不作対策として平成13年度から15年度にかけて、有明海において漁場環境改善のため県営で大規模な覆砂事業を実施することとなり、以降のアサリ資源の回復に繋がることとなった。
現在では、漁場に砂を蒔く行為、「覆砂」は、漁場を再生していく上で、効果が見込める取組みであることから、県内外の海域に広がっている。
川口漁業協同組合は、現在も漁場環境改善に積極的に取り組んでおり、現場の砂を活かす方法について検討しているところである。
アサリ採貝風景
2)緑川河口域の環境保全対策について
① 緑川河口域のヨシ原の再生活動
日本書紀に「豊葦原瑞穂国」と称されたように太古の昔からヨシ(葦)原と水田は日本の原風景であった。緑川河口のヨシ原も郷土の原風景として地域に親しまれてきた。このヨシ原のヨシは、良質で細めであるため乾ノリの製造に欠かせない御簾の材料として全国で利用されてきた。しかし、御簾の材料がプラスチック製品に取って代わられヨシの需要が無くなるとともに、ヨシ原は放置され手入れが滞り、ヨシ原が持つ水質浄化機能の低下などが憂慮されはじめた。
そこで、平成18年3月に河川管理者や隣接4漁協、環境団体などをメンバーに「ヨシ焼きin緑川実行委員会」を立上げ、ヨシの世代更新の促進、害虫の駆除などヨシ原の環境復元を目的に緑川河口でのヨシ焼きを行うことにし、第1回を平成18年11月2日に実施し、以後、毎年100名ほどの参加者で実施している。
今後、地域のヨシの新芽の発育を促す風物詩として定着することが期待されている。
ヨシ焼きの風景
② 緑川河口のゴミの回収活動
「緑川」は、ノリ・アサリ等魚貝類に豊富な栄養塩をもたらし漁業者は、恩恵を受ける反面、上流から流れてくる植物片や流木のほか、ビニール袋やペットボトル等の生活ゴミなどの回収にも苦慮している。そこで、緑川流域や河口の漁業協同組合などへ呼びかけ、平成7年10月に「緑川河口ゴミ対策協議会」を発足させ、毎年、作業員を雇用しゴミの回収作業を行っており、毎年120m3程度回収している。
③ 河川内の水草の除去
緑川河口近くへ流入している二級河川「天明新川」では、春から夏にかけて水草(特定外来生物ボタンウキクサ(ウォーターレタス))が繁茂し、河川の水質が悪化しやすく、水草が流出すると海面での漁業への支障と漁場環境の悪化を招く。このため行政機関、隣接4漁 協、農業団体などと、昭和52年に設立した「天明新川水草対策協議会」で河川内の水草を除去する作業を行っており、毎年10,000~30,000㎡程度を除去している。
重機を使用して水草を除去
3)環境教育への積極的な関与
大学の干潟域における生物・ 環境調査の協力、高校の環境教育のための干潟観察、小学生のアサリ漁業体験への協力などを積極的に行っている。環境に関心を持つ学生や生徒 に対して、現地観察や調査の機会を提供するとともに、子供たちの海や干潟に関する意識を高める取組を積極的に行っている。